恋する段差ダンサー

ハイクの投稿をまとめて記事にしていました。

若村麻由美さん@隅田川セレナーデ

午後のドラマ再放送時間は、引きこもりがちな私にとって「唯一の」和みタイムだった。こういう時間が好きなのは、たぶん幼少の頃から「誰も居ない家(共働きだったので)」で「ぽつねんと一人ドラマを見ていた」という習慣からのものなんだろうと思う。
午後のけだるい空気の中で「ボーッと」再放送ドラマを見てるとき、不思議に心が落ち着いていくような気がした。なんかもう人生これでいいや、みたいな悟りの気分にもなった。
「再放送ドラマ」というからには、もちろんリアルタイムのものではない。いつ何を見ても「そこに郷愁」があった。私はどこでも常に「郷愁」を探し求め続けてた。どこまで遡っても「自分のルーツ」なんかに辿り着けないのに、それでも「本当にあるのか、ないのか」わからない郷愁を私はずっと探し続けてた。そのうち「郷愁」それ自体が「私の郷愁」になった。ミイラ取りがミイラ、みたいな状況になってしまった。

毎日毎日、いろんな再放送ドラマが放送されていた。どこの誰が発注してるのか知らないが、ともかく「無限にある」のではないかと思わされるほど毎日放送されてた。

そんな中で特に印象強く、私の琴線に触れたのが「隅田川セレナーデ」だった。

当時の私、若村麻由美さんが好きで、それとはなしにチェックしてたのよね。だからといって若村ドラマを「待ち伏せ」などはしなかったのだけど、たまに遭遇すると「おおお」と思って、すかさず録画したものである。そうした保存動画を後年見ると、ドラマの内容だけでなく「オンエアされた年月日」そのものも郷愁になってることに気づく。「この頃これ見たなあ」という、自分自身の日記というか記録にもなってるのだな。


レビューは面倒なので、例によってスクショとともに語っていきます。

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鬼スーパー働き者の「常務さん」付きとして配属された若村さん。
常務さんは中条静夫さん。カッコいい。

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鬼常務に仕える秘書。地獄な仕事をこなす。

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この仕事を若村さんに紹介した同じ会社の専務。
実は常務のライバルで、彼女の紹介は罠だった。

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専務から「父と常務が軍楽隊で同期」と知らされる。
父は高松英郎さん。常務と正反対な「ダメ人間」を演じてる。
 
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時代を一番感じるのは、やはりヘアスタイルでしょうか。

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軍楽隊の話題から親しくなり、一緒に食事に行く仲になる。

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スーパー常務が若村さんのおかげで「人間らしく」変化してくる。

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その心のスキを突かれ失脚してしまう(専務の罠)。
「人間の心を取り戻した」中条さん。
久々にサックスを取り出し隅田川の河川敷で吹く。
 
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若村さんが「すてきです」とパチパチ。

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こういう人間らしい心を忘れてたよ。

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キミに感謝する、後悔なんかしてない、と若村さんに話す。

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若村さんが「私は田舎に戻る」と話す。
もしよかったら一緒に?駅で会えますか?

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でも二人は会えなかった。
父が常務さんのことを知らせに来る。

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「常務さん…笑ってた?」
「うん。笑ってた」
「よかった…」


よくよく考えればこれは、父ほどの年齢が離れた壮年男性との不倫物語となるのかもしれない。また「マシンのように働く」人間が、好きな女性の出現によって「人間らしく」なるというストーリーも、ありがちで陳腐のように思える。
でもこのドラマには、そういったものも打ち消すような「哀愁」があり、高度成長期のガムシャラを引きずったオトナに「少し立ち止まってもいいのではないか」と投げかけてるように見える。

本放送オンエアは1990年ということです。バブルの真っ最中で「24時間働けますか」の時代だったけど、みんな頑張りつつ「こんなんでいいんだろうか…」と思ってた人も多いはず。

ともに同期で軍隊経験のある二人。鬼モーレツ常務さん&酒に溺れダメ人間の若村父。どっちの人生が正しいかなんてわからないし、ひょっとしたら「戦争体験」によって壊れたという意味では、二人とも同じだったのかしれない。それは「自分自身を殺すこと」。でも常務の「人間らしい心」を取り戻したのが「戦争時代の楽器演奏の思い出」だったというのも皮肉なのよね*1

不思議な寂しさがあったドラマだった。

*1:自分自身の「ブラック吹部」時代のこと思い出してしまう