恋する段差ダンサー

ハイクの投稿をまとめて記事にしていました。

帰って来た桃尻娘(1986 / 中原俊)

f:id:maicou:20190314173116p:plain

70年代のことをずっと語ってきたので、気分直しに(笑)80年代のことも少し取り上げてみようと思う。

タグが「暗黒の」となっているが、自分の中で80年代というのはカッチリ前半と後半に分かれており、一連の縁が切れた後、新しく出直した87年以降の自分というのは、今の私の基本になってる部分が多くある。そういう意味では全てが暗黒というわけではなかった。

ちょうどその頃にバブルも始まるのだが、そういった社会の勢いもあって、テレビも実験的な番組や放送枠が増え、夜とか、なんとはなしにボーッと点けて観てるだけでも何かしらの刺激があった。

そんな中で個人的に特に印象強かったのが、今回紹介する「桃尻娘シリーズ」。もちろん原作は橋本治氏で、同名の日活ポルノ映画もあるのだが、こっちはTVバージョンで、なんと監督は、まだ駆け出しの中原俊氏である。
「シリーズ」というからには 2本制作されたのだけど、最初の方は「卒業間近の高校生」エピソードで「大学受験を目指しながら恋や性に悩む仲間たち」みたいな内容。当時の標準にしては全員「ススんで」おり、発想が自由で刺激的だし、インテリ屈折男子や性的マイノリティ男子も登場するなど、内容的にもけっこう攻めてるなあと感じた。

で、続編が「帰って来た」である。受験が終わりメインの3名くらいが大学に入学、他に、浪人した者と「大学なんかくだらない」と敢えて進学しなかった者がいる。それぞれの新生活を描いた群集劇。

個人的にはこの「帰って来た」のほうが圧倒的に好きだった。前作に漂う雰囲気はまだ80年代前半なのに、こっちは80年代後半の雰囲気が見えてるところが実に興味深いのである(オンエア日時は半年しか違わない)。
こっちの続編のほうは再放送時(87年)に録画し、それを何度となく見ていた。私にとってこっちは「暗黒ではないほうの」80年代だったのだ。

内容レビューはめんどくさいので書かないが、スクショとともに、個人的ツボを解説しておく。


f:id:maicou:20190314033037p:plain
港区海岸。
まだ「レインボーブリッジ」すらない!非常に貴重なのである。
浪人メンバー(セクマイ)が倉庫でバイトしている。
先輩の結婚式帰り、みんなでそこに集まり飲む。大学生、浪人、大学否定論者という立場や価値観の違う人間が集まり、飲み会は荒れてしまう。

f:id:maicou:20190314033051p:plain
豊原功補が実に味のある「卑屈青年」を演じてる。大学否定論者で頭でっかちなところなど、今とイメージがほぼ変わらない。ヒロインは相築あきこさん。
荒れた飲み会のあと豊原行きつけの、「偏屈オヤジ」がやってる「ハラスメント・バーw」に行く。なんとマスターが岸田智史なんだけど、あまりに「ハマってて」彼だと気づかなかった。ものすごい嫌な奴w

f:id:maicou:20190314033059p:plain
同じバーで後日。豊原の彼女だった黒沢ひろみさん。

f:id:maicou:20190314033034p:plain
このシリーズで大好きだったのが金子美香さん演ずる「醒井さん」。今で言う「ヤリマンメンヘラ」で、ともかく周囲を振り回し、みんな迷惑がってる。

f:id:maicou:20190314033030p:plain
渋谷の歩道橋でバッタリ。この80年代風景も貴重。
醒井さん、結婚した先輩と1週間で離婚してしまう。

f:id:maicou:20190314033056p:plain
そして相築さんが好きだった相手を寝取ってしまう。
カニを買って相手のアパートに押しかける醒井さんとかち合うの図。

f:id:maicou:20190314033041p:plain
カニを「くちゃくちゃ」食べるドアップは、映画「赤ちょうちん」ラストで秋吉久美子さんが「トリ」をぐちゃぐちゃ食べるシーンのオマージュだったかも。

f:id:maicou:20190314033047p:plain
傷心の相築さんが「ハラスメント」マスターに近づくが、悪ぶってた外面と違い実像が情けないオッサンだと判明し、興ざめして去る。
この岸田のキャラなんか、ちょうど今の「ちょい悪アラ還」みたいで、「日本をダメにしたのこいつら!」みたいに思うw
 

f:id:maicou:20190314033110p:plain
そして港区海岸に戻ってくる。
セクマイ浪人生と傷を舐め合いましょうみたいな(彼も好きだった先輩男子に振られている)。抱えてるのがサッポロ生樽。当時流行ったのよね。

f:id:maicou:20190314033107p:plain
何故か「偶然」みんな集まってきちゃうw
倉庫の屋上で「謎の儀式」をして遊ぶ。

f:id:maicou:20190314033103p:plain
もっと上で飲もうよと。
そして「まだレインボーブリッジもフジテレビもない」お台場空撮になりドラマは終わる。


おそらくだけど、これ「フィルム撮影」だと思うのよね。だから映画みたいでもある。監督が中原俊氏だし、彼の初期の映画だと思っても楽しめる。ちなみに私、彼の「桜の園」がすごく好きです。その世界観は、既にココにもあったかも。と後付だけど思ったりした。

あと、このシリーズでもっとも特徴的な要素となっているのが、「60年代〜70年代」ロック曲がBGMとして使用されてるところ(だからDVD化が難しい)。しかもその選曲が、なかなか渋くてですね、いわゆるオールディーズでもない、それまでの映画やドラマでは使われなかったような曲があったりする。これはかなり新鮮だったと思う。

この当時、豊原氏が20歳くらいだし相築さんも19歳くらいで、ほぼ世代的に等身大なのよね。かれらと同年代(ドラマ設定とも)の人々は、ちょうど平成になる頃に社会人になり、その後の30年の日本とともに歩いていく。今は50代前半ですね。
夜中の再放送でこれを見たとき、(その時の自分の境遇と併せて)日本が変わっていく気がする…みたいな、何か薄っすらとした希望みたいなものを自分は感じたのよね。物質的なものではない(バブルだったけど)。もっと何か、人の中の価値観が変わっていく、みたいな感じ。
わりと私、映画やドラマに簡単に影響受けるの。単純だからw だから録画したこれを何度も観て、「自分も変わっていくんだ」みたいな暗示をかけてたんだろう。暗黒の70年代は終わりなんだと。

そういう意味では「影響された」のではない。「あえて影響受けに行った」のだ。そうして夢の90年代に突入していくのである。


★続き

karamandarine.hatenadiary.jp