恋する段差ダンサー

ハイクの投稿をまとめて記事にしています。

「商魂」という美学〜キャピトルアルバム考察

2009年のリマスターリリースは、ファンとマニア、双方の最大公約数的希望をほぼ叶えた素晴らしい仕事と言っても良いと思うが、実は5年前のキャピトルボックスリリースが、この試金石のようなものになったのではないか、と個人的には踏んでいる。英国オリジナル「ではない」マスターがオフィシャルとしてリリースされること、それ自体がまずそれまでの「ビートルズ業界」の常識ではあり得なかったし、ましてや、モノ&ステレオと2種類が出ることもまったく想像すらされなかったことである。それ故、キャピトルの仕事は素晴らしいと言えるのである。


オリジナル、という観点で言えば、本来のアルバム構成を切り刻み、入れ替え、差し替え、収録教を減らし、アルバム数を増量し、エコーや低音増強等の音源加工、また商業主義的派手なジャケットと告知文など、全ての要素がマイナスで捉えられがちだが、後述であるように、北米大陸の購買総数は破格なのであり、そこに向けた戦略、そして結果的に「勝った」という事実も含め、これは「こちらも正しい」という認識で、現在の考え方としては良いのではないだろうか。また、本家パーロフォンと違い、産む必要がなかったキャピトル側にとっては、有り物を組み替えるだけで、自由なイメージ付けやコンピレーションが可能であり、素材としては考える限り最高級のものだったはずである。昨今の音楽業界は不況といわれるが、当時の米キャピトルが「独自に取った戦法」のうちいくつかは現在でも通用する気がするし、また、大衆音楽というものの真理も教えてくれているような気がする。


以下に紹介する文章は、前回のモノミックス考察の番外編として書いたものだが、現在でも僕個人の考えは変わっていないので、そのまま転載したいと思う。




番外編 US編集アルバム

アーティストの許可なく編集されたアルバムということで、当ページの主旨「オリジナル」という観点からは最も遠いものであるが、いくつか興味深い点があるので取り上げてみたい。
ご存知のように、米国では当初 Beatles は受け入れられず、結果複雑な契約となってしまい、本国とは別のフォーマットで数々のアルバムが乱造されている。マーティン氏やメンバーたちがそれを快く思っていなかった事実は数々の文献から明らかであるが、それもアーティストとしては当然であろう。しかし、ビートルズのレコードの最大の市場は北米だったのであり、不本意に編集されたアルバムであってもその売り上げ枚数は膨大なものであって、結果、それらを当時耳にした人々も下手をすればオリジナル以上の膨大な数に上るはずである。これは無視できない存在だろう。


米キャピトル・レコード社は収録曲目を勝手に入れ替え編集しただけではなく、その音さえも米国好みの音に改変している。モノしか存在しないバージョンは擬似ステレオ化し、低音を効かせたりエコーをかけて迫力を出したりしている*1。多数のミックス違い曲も収録されているので、余裕のある方は一度聴いてみるのも良いだろう。



公開された映画に合わせた独自のサウンドトラック・アルバムも米国では製作されているが、これも映画のBGM等が収録された面白いもの。一本目のA HARD DAY'S NIGHT サウンドトラックは UNITED ARTISTS 社が編集発売したもので、ジョージ・マーティン氏のインストが、いにしえの欧風な造りで良い味を出している。二本目のHELP!(CAPITOL社が編集発売)は監督リチャード・レスター氏とマーティン氏が仲違いした為、インスト曲も別な作曲家の担当となった。これがなかなか不気味で面白く、シタールが多用されているなど、後のジョージ・ハリスンの音楽性も示唆している*2サウンドドラック・アルバムに関しては、こちらの考察も参考にしていただきたい。→ 架空のサウンドトラック・アルバム


「Magical Mystery Tour」も米国独自編集であるが、米国以外本国などでも人気があったため、CD化にあたって正規採用されたのはご存知のとおり。だがCDはその収録曲だけ踏襲したのであって、実際の編集はアナログとは異なっているので注意が必要だ。米国版はその直前のアルバム「SGT Peppers」の流れを受け、全編に渡って曲間なしの編集となっている。また後述するが「Strawberry Fields Forever」のミックスも異なるもの。また「Walrus」のイントロも有名な米国仕様。後半3曲は擬似ステレオとなっている。これに似たもので「Hey Jude」という編集アルバムがあるが、これは全曲リアル・ステレオ収録となった。ただいくつかのトラックが左右逆の位相になっているなど細かい違いはあるので、侮れないものである。


全 Beach Boys、Brian Wilson ファンにとって、もっとも興味深いのが「Rubber Soul」であろう。かの有名な「PET SOUNDS」 は「Rubber Soul」にインスパイアされた、とブライアンが常々語っているのだが、その「Rubber Soul」が実はオリジナル版ではなく、米国編集版であると思われるからだ。これはオリジナル版とは印象がまったく異なるもので、ブライアン&ビーチボーイズ・ファンならば是非一度耳を通すべきものであろう*3



Capitol Albums 発売!
モノ・ステレオ両バージョンの収録ということですが、基本的にUS盤のモノミックスはステレオミックスをそのままモノにしたバージョンが多いので注意。Capitol Albums, Vol. 1は、全て米キャピトル社オリジナルのマスターで収録されました。米独自のモノミックス、ステレオミックスあり、ステレオをそのままモノにしたものあり、のバラエティに富んだ内容が、そのまま再現されたのです。素晴らしい仕事です。

*1:テープスピードを遅くしヘビーなサウンドにする、ということもやっている。CD化では、この辺はマスターの都合で緩和されたようだ。

*2:個人的なことだが、私自身ラジオで一度聴いたこの不気味なインストが忘れられず、HELP!に関してはこの米国版を購入し愛聴していた。お陰で英国版HELP!収録のB面曲を知ったのはずいぶん後になった。

*3:特にオープニングが「I've Just Seen A Face」で有ることのインパクトはかなり大きく、そう考えると、Wings US ツアーでの、同曲の意外な人気ぶりのことも、なるほど納得いく話である。