恋する段差ダンサー

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「70年代ニールセダカ」というデジャブ


ポップス系マニアにとって、ビーチボーイズと並び、決して外せない、と言われているのが70年代のニールセダカだ。しかし、ビーチボーイズ以上にその壁*1は高く、難易度*2も高い。その理由はひとえに、その「イメージ」にある、と言っても過言ではない。一定以上の年齢の人なら、ニールセダカ、と聴くと、「ああ、懐メロ歌うおっさんね」ということになる。また、若い人なら名前すら知らない、カレンダーガールとかオーキャロルとか恋の片道切符とか、そういった代表曲を「音」で聴けば、「ああ…」と必ず判ってはもらえるけど、だからといって、それがアーティスト評価に繋がるかと言えばそんなこともない。


さて、そんな偉そうなことを今ここで書いてる、この僕自身もそんなひとりだった。ポップスマニアとしては外せない鉄板なのですよ、と情報で知ってはいても、限られた時間と資金でそこまで手を伸ばすには随分と寄り道をしたもんだ。そして「あるきっかけ」がなければ今も聴いていなかったかも知れない、と思うとこれも運命だろうと思うね。

その「あるきっかけ」とは、実はネットラジオだった。2000年代初頭。ネットの普及に伴って「ストリーミング」というネットラジオ局を運営する人々が増えた。当時の僕は「新しい音楽」に飢えていて、世界にはどんな音楽を発信する奴がいるんだろう、という気持ちで興味津々、検索しまくってはアドレスを見つけ、聴きまくっていた。当然DJミックスとかハウスとかが多く、または変なユーロテクノとかもあったり、あとはメタル専門とか、まあ想像通りな感じだった。

そんなある日「70's」というチャンネルを偶然見つける。最初それを見つけたとき「70'sだって?ふん。どうせ全部知ってる曲だ。有名どころばっかりだろ」と思った。まあしかし、懐かしい気分になってやろうじゃん、的な簡単な気持ちでクリックをした。Winampが立ち上がった。音が流れてきた。

そこからですよ。ほぼ毎日数時間ノンストップ。全部知ってる曲だったかって?とんでもねえ!聴いたことない曲ばっかりだった。ともかく僕にとって衝撃的だったのは「サウンド」自体は「懐かしい」のに、曲がまったく初聴きだった、ということだった。しかもどれもこれも、メロやコードやらが、全てど真ん中直球だったこと。ありえないんですよ。そんなこと何十年生きてきてありえないんですよ。そんで、僕は本当にたまげてしまって、世の中には知らんことはまだまだ山ほどあるんだなあ、と。


そんなソングリストの中で、とりわけ僕のハートをドキューンと撃ち抜いた曲があった。1日一回は必ずかかった。妙に古くさい感じ、おっさん臭い声、なのにほんのりアカデミックな匂いと絶妙な転調。この感じは、ひょっとしてこれこそが、ポップス必須科目と言われた「70年代ニールセダカ」ではないだろうか、と。そんな自分の感覚は、毎度の事ながら嬉しいもんだね。その通り、当たっていたのだ。その曲こそが、名曲「雨に微笑を」だったのだ。

その後の行動は早かったね。アマゾンで売っていた70年代のCDを一気に全部注文。その中の2枚が「後付けコンピレーション」ぽい事に気付き、ネットの情報で「オリジナル」の形に組み替えた。この辺は、かつてポルナレフでもやったことだね。歴史は繰り返すぜ。それで、毎日毎日ノンストップでループの日々が続いた。


ペットサウンズの時にも同じ事を言った記憶があるが、世の中の「名盤」とか「必須」とかそんなことを言われてるものほど胡散臭く、実際に聴いたときに期待はずれだった、ということは多い。しかし唯一の例外が「ペットサウンズ」なのであり、そしてもう一つ例外があるとすれば、この70年代ニールセダカだろう。期待以上だった、と言ってもいい。実際に僕は何年も楽しんだ。投資した資金などあっという間に回収したどころか、彼の音楽は僕の身体の中に宝の山となって現在も備蓄されている。


今振り返って、僕がニールセダカに貰ったものの中で一番大きなものは何かと考えれば、これは番組の中でも言っているけれど、「これでいいのか!」という自己肯定だったと思う。2000年代に入り、多様な価値観に触れ、数々の才能にも触れ、自分自身どうして良いのか判らなかった時期もあった。そんな混沌の毎日の中でaikoに出会い、続けてニールセダカに出会ったことで、自分の中にものすごい確固とした太い道が出来た、という気がした。オレの道はこれじゃねえか!と。ふらふら寄り道してんじゃねえよ、と。堂々と自分の道を歩け、ど真ん中を歩いていけ!と。60年代後半以降不遇だったセダカが70年代中盤に見事復活できたのも、一切手抜きせず優れた作品を生み続け、信じた道を歩んだ結果ではないか。そしてそれは「音」がちゃんと証明しているのだ。


この後の僕は、少なくとも創作に置いて迷うことは一切なくなった。
「アンタは大丈夫だよ」そう彼らは言ってくれた。恩返しはちゃんとしないとね。

*1:「気持ち」の壁

*2:ビーチボーイズと同様、ロック系から「時代遅れのダサい音楽」扱いされ不遇の時代なので