恋する段差ダンサー

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ブライアンの SMiLE は作者本人による解説本

いやぁ久々に興奮した出来事だったね。それにしてもビルボードにチャートインとは。先日のポールのアルバムと言い、ここ最近は、近年まれに見る久々の充実した日々だった。

というわけで遅くなったけど Brian Wilson スマイル登場。で、どうだったかって?率直な感想は「よく創ったねー」。本当に純粋に仕事として感心した。さすがに今まで数え切れないほど各種音源を聞きまくっていた僕であるから、いまさら「感動」というのはなかったよ。でも素晴らしい仕事だと思う。本当に「良くやった」としか言えない。こういうものを聞かされると、頑張ろうという気力が湧いてくるね。

みんなスマイルが難解だとか言うけど、僕は始めて音源を聞いたとき(多分アメリカンバンドのビデオ)から、特に難解だとは感じてなかった。奇妙でおもしろそうだとは感じたけど。そもそも僕等みたいに吹奏楽やオケ経験者は、ヘンテコな音楽の演奏経験がたくさんあるから、これくらいで難解とは感じない免疫みたいなものがあるし、個人的にも映画のサントラのような効果音やらなんやら変幻自在の音楽はそもそも好きなので、逆にとっても興味が湧いた。そういえばZeppelin解散後のジミーペイジのソロ「Death Wish II」サントラも非難ごうごうだったけど、あれも僕は大好きだったなぁ。ちゃんとした音楽になってないと一般には受け入れ難いんだろうけどね。

でも、この奇妙な音楽である「スマイル」をブライアンは何故創ろうとしていたのか。その理由は僕も当初わからなかった。何か理由がなければ、あのような音楽を創ろうとは思わないはずだし、決してドラッグや精神病のせいで妙な音楽を構築していたわけではないだろう、とは感じていた。何かの音楽が生まれるとき、必ずどんなものにも理由がある筈。それはいったいなんだろうか。それが判らなかったのだ。ブライアンを良く思わない人たちやロックアーティストの奇行を面白がる無責任な人たちは「ブライアン逝ってしまった説」を唱えていたようだが、僕はそれを疑っていた。音楽家として覚醒していたブライアン、というほうに賭けていた。

その後いろいろ調べていく段階でヴァン・ダイク・パークスというアーティストを知る。更に「スマイル」のコンセプトは「古き良きアメリカと西部開拓時代へのオマージュ」であるということも知った。それらの発言やヴァンダイクの「ソングサイクル」を聴いた後、改めてスマイル収録予定曲の歌詞を読み直してみると、いろいろ見えてきたものがあった。きっかけは Cabinessence だったね。あの歌詞の内容がなんとなく理解できたことによって、サウンドの意味やジャケット付録の挿絵の意味なども一気に見えてくるようになったのだ。なるほどね…。

それ以降、僕はアメリカの古い文化や映画などを意識して見るようになった。MGMのミュージカル映画とか、アステアものとか、ショーボートとか。凄く楽しめたね。ともかく1930年代〜50年代にかけてのアメリカ文化。半端じゃない勢いです。普通の古い娯楽映画の中にも、当時のアメリカ市民の一般的価値観などが表れていて参考になった。あとは意外かも知れないけど東京ディズニーランド(!)。あそこのウエスタンランドが、まさにその世界なのだ。 TDLそのものは数回しか行ってないし、全体が好きというわけではないのだが、ウエスタンランドだけはおもしろかったねー。ウエスタンリバー鉄道に乗りながら「英雄と悪漢」や「Do You Like Worms」を口ずさんだり(笑)。ただの変な人ですが。すっかりあの世界にはまっていた。そのように「SMiLE」の世界にだんだん近づいていったのだ。

サージェントペッパーのテーマは「回顧」だって言われてるよね。シングルとして先行リリースされてしまったから未収録となったが、「ペニーレイン」も「ストロベリーフィールズ」も、そもそも過去を振り返る曲だ。タイトル曲の雰囲気も古いショー風な展開だし、古臭いシャッフルの曲も多いし、ミスターカイトのコンセプトも、ジョンの記憶にある古いサーカスのニオイと喧騒だし。ビートルズとブライアン、ほぼ同時期に同じようなテーマでアルバムを製作してたんだよね。ビートルズの場合はコンサートツアーを止めて時間ができたので、過去を振り返る余裕ができてしまったという理由もあるけど、なにか欧米的には全体的にそういう風潮だったのかもしれない。戦後の価値観が崩れるときを迎えたというか。あとは個人的に感じるのは、ポール個人のアメリカに対する憧憬ってこと。これの象徴としてビーチボーイズやブライアンに対する敬愛も含まれただろうし、ちょっと乱暴だけど、結果的にそれはリンダとの出会いに繋がっているような気がする。

話があちこち飛んでしまった。つまり「SMiLE」を読み解く鍵は、まさにヴァンダイクパークスの「お話」だと思う。「SMiLE」が良く判らないという人は、訳詞でも何でも良いから是非読みながら聴いてもらいたいのだ。そうじゃなくても背景にそういう世界がある、と想像を膨らませるだけでもずいぶん違うと思う。
こう考えると「SMiLE」は、ロックの名盤とかそういう範疇じゃないのかもしれない。音楽絵巻なんだよな。ブライアンが今年完成させた「SMiLE」でもそれは十分伝わるが、66年当時膨大な影響力のあったビーチボーイズがこれをリリースできていたら、その説得力は数百倍にもなっていたのじゃないだろうか。でも多分それは彼等の「器」じゃなかったような気もする。だって「SMiLE」リリースによって時の人になったビーチボーイズが、その後ロック界に巻き起こるであろう様々なことに対処できると思う?これは結果論だけど、彼等のキャラから言ってもどう見ても不釣合いだし、そうなって欲しいとも思わない。そもそもメンバーの誰一人納得していないアルバムなんだから。こうして2004年にブライアン・ウィルソン、ソロ名義でのリリースが最も相応しかったのかもしれないな、と。
もちろん当時の6人の声で構成された「SMiLE」も聴いてみたかったけどね。「SMiLE」が本当に見せたかった世界は、今回のものでも十分わかる。むしろ判りやすいかもしれない。これは製作から37年経って届けられた、作者本人による SMiLE 解説本なのだ。