恋する段差ダンサー

ハイクの投稿をまとめて記事にしていました。

帰って来た桃尻娘(1986 / 中原俊)

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70年代のことをずっと語ってきたので、気分直しに(笑)80年代のことも少し取り上げてみようと思う。

タグが「暗黒の」となっているが、自分の中で80年代というのはカッチリ前半と後半に分かれており、一連の縁が切れた後、新しく出直した87年以降の自分というのは、今の私の基本になってる部分が多くある。そういう意味では全てが暗黒というわけではなかった。

ちょうどその頃にバブルも始まるのだが、そういった社会の勢いもあって、テレビも実験的な番組や放送枠が増え、夜とか、なんとはなしにボーッと点けて観てるだけでも何かしらの刺激があった。

そんな中で個人的に特に印象強かったのが、今回紹介する「桃尻娘シリーズ」。もちろん原作は橋本治氏で、同名の日活ポルノ映画もあるのだが、こっちはTVバージョンで、なんと監督は、まだ駆け出しの中原俊氏である。
「シリーズ」というからには 2本制作されたのだけど、最初の方は「卒業間近の高校生」エピソードで「大学受験を目指しながら恋や性に悩む仲間たち」みたいな内容。当時の標準にしては全員「ススんで」おり、発想が自由で刺激的だし、インテリ屈折男子や性的マイノリティ男子も登場するなど、内容的にもけっこう攻めてるなあと感じた。

で、続編が「帰って来た」である。受験が終わりメインの3名くらいが大学に入学、他に、浪人した者と「大学なんかくだらない」と敢えて進学しなかった者がいる。それぞれの新生活を描いた群集劇。

個人的にはこの「帰って来た」のほうが圧倒的に好きだった。前作に漂う雰囲気はまだ80年代前半なのに、こっちは80年代後半の雰囲気が見えてるところが実に興味深いのである(オンエア日時は半年しか違わない)。
こっちの続編のほうは再放送時(87年)に録画し、それを何度となく見ていた。私にとってこっちは「暗黒ではないほうの」80年代だったのだ。

内容レビューはめんどくさいので書かないが、スクショとともに、個人的ツボを解説しておく。


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港区海岸。
まだ「レインボーブリッジ」すらない!非常に貴重なのである。
浪人メンバー(セクマイ)が倉庫でバイトしている。
先輩の結婚式帰り、みんなでそこに集まり飲む。大学生、浪人、大学否定論者という立場や価値観の違う人間が集まり、飲み会は荒れてしまう。

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豊原功補が実に味のある「卑屈青年」を演じてる。大学否定論者で頭でっかちなところなど、今とイメージがほぼ変わらない。ヒロインは相築あきこさん。
荒れた飲み会のあと豊原行きつけの、「偏屈オヤジ」がやってる「ハラスメント・バーw」に行く。なんとマスターが岸田智史なんだけど、あまりに「ハマってて」彼だと気づかなかった。ものすごい嫌な奴w

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同じバーで後日。豊原の彼女だった黒沢ひろみさん。

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このシリーズで大好きだったのが金子美香さん演ずる「醒井さん」。今で言う「ヤリマンメンヘラ」で、ともかく周囲を振り回し、みんな迷惑がってる。

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渋谷の歩道橋でバッタリ。この80年代風景も貴重。
醒井さん、結婚した先輩と1週間で離婚してしまう。

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そして相築さんが好きだった相手を寝取ってしまう。
カニを買って相手のアパートに押しかける醒井さんとかち合うの図。

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カニを「くちゃくちゃ」食べるドアップは、映画「赤ちょうちん」ラストで秋吉久美子さんが「トリ」をぐちゃぐちゃ食べるシーンのオマージュだったかも。

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傷心の相築さんが「ハラスメント」マスターに近づくが、悪ぶってた外面と違い実像が情けないオッサンだと判明し、興ざめして去る。
この岸田のキャラなんか、ちょうど今の「ちょい悪アラ還」みたいで、「日本をダメにしたのこいつら!」みたいに思うw
 

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そして港区海岸に戻ってくる。
セクマイ浪人生と傷を舐め合いましょうみたいな(彼も好きだった先輩男子に振られている)。抱えてるのがサッポロ生樽。当時流行ったのよね。

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何故か「偶然」みんな集まってきちゃうw
倉庫の屋上で「謎の儀式」をして遊ぶ。

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もっと上で飲もうよと。
そして「まだレインボーブリッジもフジテレビもない」お台場空撮になりドラマは終わる。


おそらくだけど、これ「フィルム撮影」だと思うのよね。だから映画みたいでもある。監督が中原俊氏だし、彼の初期の映画だと思っても楽しめる。ちなみに私、彼の「桜の園」がすごく好きです。その世界観は、既にココにもあったかも。と後付だけど思ったりした。

あと、このシリーズでもっとも特徴的な要素となっているのが、「60年代〜70年代」ロック曲がBGMとして使用されてるところ(だからDVD化が難しい)。しかもその選曲が、なかなか渋くてですね、いわゆるオールディーズでもない、それまでの映画やドラマでは使われなかったような曲があったりする。これはかなり新鮮だったと思う。

この当時、豊原氏が20歳くらいだし相築さんも19歳くらいで、ほぼ世代的に等身大なのよね。かれらと同年代(ドラマ設定とも)の人々は、ちょうど平成になる頃に社会人になり、その後の30年の日本とともに歩いていく。今は50代前半ですね。
夜中の再放送でこれを見たとき、(その時の自分の境遇と併せて)日本が変わっていく気がする…みたいな、何か薄っすらとした希望みたいなものを自分は感じたのよね。物質的なものではない(バブルだったけど)。もっと何か、人の中の価値観が変わっていく、みたいな感じ。
わりと私、映画やドラマに簡単に影響受けるの。単純だからw だから録画したこれを何度も観て、「自分も変わっていくんだ」みたいな暗示をかけてたんだろう。暗黒の70年代は終わりなんだと。

そういう意味では「影響された」のではない。「あえて影響受けに行った」のだ。そうして夢の90年代に突入していくのである。


★続き

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早熟男子 〜「孤独の勝者」感

前回こんな記事を書きました。

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書きながら自分でも思ってたのだけど、こういうのって日頃わたしが嫌ってる「暗黒の昭和時代もの」なんじゃないのか、なんで「好き」みたいに取り上げるのかって。
確かにそうだ。昔は実際にこういう世界のこと嫌ってたし、それを構成してる人間、この世代の人々の考え方や風習そのものを忌み嫌ってた。

当ブログでも散々話題にしていたわ。

ネット無礼講 カテゴリーの記事一覧 - 恋する段差ダンサー


じゃあ今はそういうの消えたの?と考えると、そうでもないのだが、じゃあ受け入れられるようになった理由は何なのか。


いろいろ考えてみた結果「この辺がきっかけなんじゃないか」と思われるフシのある番組があった。それがこれだ。


渥美清の伝言


この動画はダイジェストだが、本当はもっと長い。その長い完全版を私はリアルタイムで偶然見て、「この当時の人々の」「オモテからは見えない」裏の姿を知ったのである。
男はつらいよ」シリーズと言えば、もう「典型的な」古風日本賛美として取り上げられるコンテンツなわけで、もちろん私だって「好きなわけがなく」「1本たりとも見たこともなく」避けていた世界観であった。そんな私でも、この番組は心に来るものがあったのである。
当時の私はというと、長年やっていたドラマー〜ホテル業を経て、音楽家としてオモテに戻ろうとしていた時代だった。創作活動はよく「つるの機織り」みたいだと例えられたりするが、これも同じく「オモテの華やかさと裏の苦労のギャップ」について、演じる本人が告白した、とても貴重な証言だったと思う。自分自身の当時の立場になぞらえて、かなり突き刺さってきたのである。

その後しばらくして、渥美氏の長男から「父からのひどいDV」告発という事件があるのだけど、それを知ってしまった今でも、この番組に対する自分の気持は変わらなかった。井上ひさしではないが、渥美氏に関しても「さもありなん」と思ってしまったのは、やはり世代のイメージが最初からあったためだろうか*1


さて本題。
私は常々「自分は早熟だったので苦労した」と語っています。極めて幼少から「オトナの」音楽を聞き、それらの良し悪しを聞き分けていた。自分の好きな音楽を語るとオトナからは「子どもなのにそんなの聴くの?」と驚かれ、当然同世代の子どもからは理解されなかった。
とても早い段階でロックやポップスを聞いて好きになったせいで、世の中の流行や作風が変化し「昔のほうがよかった…」と思ってしまう時期も、同世代より数年早く訪れた。早くも小学5年くらいから懐古厨みたいに「こんなのちっともよくない。前のほうがよかった」などと言う子どもだったのである。そうして高校時代には既に「世の中の音楽は全然よくない」という状態に陥った。

これが90年代〜2000年代サブカル昭和ブームで、自分好みの音楽性が世の中に復活し、引いては自分自身の再生のきっかけになったのだ、という話はココでよく書いた。そこに戻るまでは本当に長かった。

2000年代になってネットを始め、自分が子供の頃に好きだった音楽のファンと当時の話をしてみたい!と思うようになった。ところがだ。そうしてみたところ「自分と趣味があう年代が、ほぼ痛いアラ還世代ばかりになっていた」という現実を突きつけられる。そらそうだ。自分は早熟だったのだから、気が合う趣味の人々が、みんな「すごく年上」なのも当然だったのである。

私はそんな簡単な事実に気づかなかった。それが地雷だと気づかずに迂闊に近づいてしまったのだ。あとはもう前述カテゴリーで散々書いたとおり、昔「立派に見えた年上」のお兄様がた、今は「劣化オトナ」に成り下がっていた人々に散々な酷い目に遭うという。もうホントに何度も書くけど「こんな人達だったの…」という落胆はかなりなもので、今でもトラウマだ*2

結局やつらと「心通じ合う」的な気持ちは終始持てなかったのであるが、当時「すごくオトナで頼もしい」世代の「現在における社会での体たらくな現実」を知ったことで、自分の中に「ああ私はもう彼らとは違うんだ。」という感情が生まれた。同じ時代に生き、同じ空気を吸ってたはずなのに、今の彼らと自分は、感覚がこんなにも違う。

…そう気づいたとき、自分の中に「一息つけた感」みたいな気持ちが生まれた。
ずっと孤独だったが、その孤独と引き換えに、私は今、こういう特殊能力を授かり仕事にできている。これで正しかったんだ、私はやっと彼らに追いつき勝てたのかもしれない…と思った。

自分が「上から目線(俯瞰的な)」でモノを見れるようになり、初めて「昭和レトロ」を「微笑ましく」鑑賞できるようになった、ということなんである。

これが例えば、今も自分が「ホモ・ソーシャルやアラ還ミソジニーに振り回されている」というような辛い立場だったとしたら、野良猫ロックも寅さんも、穏やかに見ることなんか出来なかったはずだ。今の自分が「そういうものと無縁になれたからこそ」そういう作品を楽しめるようになった、ということなんである。

気持ちの余裕。

それこそが自分を成長させた最も大きなものだったのだな。と。

梶芽衣子さん@ヨコハマ

長崎時代、最初の1年間だけケーブルテレビを見ていた話は以前も書いた。NECOやファミ劇でオンエアされてた古いドラマを見て「自分の郷愁は多摩川にある!」と気づいた、というやつだね。

そこで見たどれかの映画で、70年前後のヨコハマが出てきて、路面電車などが映っていた。実は自分は昔から「ヨコハマ」というものに興味もなく縁もなく、ごく最近まで「どうでもいい」みたいに思ってたのだが、最近、街の成り立ちや地形など、長崎と共通する部分も多いことに気づき、俄に興味が湧いてきたのだね。

まあそんで「70年前後のヨコハマを確認したい」と思い、10年前のケーブルテレビの記憶から、手持ちの動画で「ヨコハマが舞台」というと、まずこれが思いついたので久々に見てみた。それがこの「野良猫ロック マシン・アニマル」である*1

米軍基地&廃墟マニアの私としては、安岡力也が出てくる前作も好きなのだが(ラスト、立川基地内での銃撃戦がすごい)、今作の「ベトナム脱走兵を逃がす」という題材が「私の愛したウルトラセブン」と共通していて、その辺が惹かれた。逃げる兵隊、好きです(ジェンキン寿司)。
また今までの3作に比べて「あまりシリアスではない」というところも重くなくてよかった気がした。バイクでのチェイスシーンなど、「何かいいことないか子猫チャン」を意識したと思わせるようなところもあって楽しいです。ラストの虚無感も好きだな。

というわけで、このシリーズの圧倒的魅力は梶芽衣子さんにある。…と見た人ほぼ全員が語ってるので、私が特別ここで言うこともないですが、まあそのかわりに「スクショでもどうぞ」といった感じです。


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定番となった「ハット」着用。


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郷鍈治さんと。
宍戸錠実弟で、妻は「ちあきなおみさん」だった。
郷さん葬儀の時「私も一緒に焼いてくれ〜」と棺にすがりついたのは有名。


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和風黒髪ロングヘアーという「完全プロトタイプ」の完成形。


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当シリーズもうひとりの主役。藤竜也さん。
今作は割と真面目な役です。


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ヨコハマで全員集合。
脱走兵の「チャーリー」が捕まっちゃった。前述の「私の愛したウルトラセブン」でもそうだったが、脱走兵は「とことん情けなく」描かれます。


というわけで最も荒かったと思われる70年前後のヨコハマ。なかなか楽しめたのではないかと思った(しかし、記憶にあった「見たかったシーン」は出てこなかったw)。


★続き

 

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*1:野良猫ロックシリーズは全5作。そのときに全部見ているが、個人的に惹かれたのは「長谷部安春」監督の作品。もうひとりの藤田氏版は70年代特有の湿っぽさと汚さがあって自分は無理だった。